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札幌地方裁判所 昭和60年(ワ)929号 判決 1992年5月14日

原告

吉田敏子

原告

吉田真知子

原告

吉田香奈子

原告吉田真知子、同香奈子法定代理人親権者

吉田敏子

原告三名訴訟代理人弁護士

村松弘康

伊藤誠一

右村松弘康復代理人弁護士

肘井博行

太田賢二

被告

株式会社大森電設

右代表者代表取締役

大森鳳吉

右訴訟代理人弁護士

澤田昌廣

主文

一  被告は、原告吉田敏子に対し、二二八九万三〇一七円、原告吉田真知子及び同香奈子に対し、各二〇六五万二九五三円及びこれらに対する昭和五七年五月六日から各完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告吉田敏子のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用の負担は次のとおりとする。

1  原告吉田敏子に生じた費用はこれを二分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

2  原告吉田真知子及び香奈子に生じた費用は被告の負担とする。

3  被告に生じた費用はこれを二分し、その一を原告吉田敏子の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告吉田敏子に対し、四一三〇万五九〇七円、原告吉田真知子、同吉田香奈子に対し各二〇六五万二九五三円及びこれらに対する昭和五七年五月六日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

原告吉田敏子(以下「原告敏子」という。)は、亡吉田功(以下「吉田」という。)の妻であり、原告吉田真知子(以下「原告真知子」という。)及び同吉田香奈子(以下「原告香奈子」という。)はいずれも吉田の子である。

2  事故の発生

吉田は、次の事故(以下「本件事故」という。)によって死亡した。

(一)発生日時 昭和五七年五月六日午後二時一〇分ころ

(二)発生場所 北海道勇払郡鵡川町晴海町九四番地所在の太平洋砂利工業株式会社(以下「太平洋砂利」という。)の砂利プラント工事現場

(三)態様 後記3、4のとおり

(四)結果 吉田は、後記3(五)のとおり、地上約七・五メートルの構内第一柱上で、帯電しているリード線に触れて感電して地面に墜落し、約二〇分後に電撃ショック死した。

3  事故の態様等(選択的主張の一)

(一)中道機械株式会社(以下「中道機械」という。)は、太平洋砂利から2(二)記載の場所に砂利プラントを新設する工事を請け負い、被告は、中道機械から右砂利プラント工事のうち、北海道電力株式会社(以下「北電」という。)が供給する高圧電気をプラント内施設まで導くための配線工事、すなわち北電電柱から砂利プラント構内の第一柱まで高圧線を引き入れ、電圧を調節したうえプラント内の各機械等で配線する電気工事(以下「本件電気工事」という。)を請け負った。

(二)昭和五七年五月四日の時点においては、別紙一(略)の図面表示のとおり、本件電気工事のうち北電電柱からプラント構内の第一柱を経てキュービクル(電力節減装置)及び配電盤までの配線が完了しており、太平洋砂利がその独自作業であるダンプウェアの設置のための溶接作業等に電力を利用していた。

しかし、被告がケーブル埋設用の溝堀を依頼した太平洋砂利の従業員が、昭和五七年五月四日、重機(ユンボ)を用いて作業を進めていたところ、砂利プラント構内第一柱からキュービクルに至る地中の高圧ケーブルを切断してしまった。そのため右高圧ケーブルの入換え作業が必要となったが、被告は、代替の本ケーブルの入手に数日を要したため、とりあえず移動ケーブルを仮設して受電していた。

(三)本件事故当日、代替の本ケーブルを接続できることになったが、太平洋砂利及び中道機械が停電時間を昼休み時間に留めることを要求したので、移動ケーブルによる通電を確保しながら代替本ケーブルを敷設接続することになった。

具体的には、別紙一の図面表示の区分開閉器の負荷側に接続してあった仮設移動ケーブルを北電電柱上に設置されている分岐開閉器の二次側(負荷側)に移設しこれに通電させながら、代替本ケーブルを埋設するための穴を掘って敷設したうえ、これを区分開閉器とキュービクルとに接続するというものであった。

(四)被告の従業員の池田秋弘(以下「池田」という。)が仮設移動ケーブルを移す作業にあたったが、区分開閉器の二次側に通電する状態(区分開閉器が「閉じ」ており、スイッチが「入り」の状態)にしたまま、分岐開閉器の二次側には通電しない状態(分岐開閉器が「開い」ており、スイッチが「切り」の状態)で作業をし、仮設移動ケーブルを分岐開閉器の二次側に移した。

池田は、この時点で、同じく被告の従業員で現場責任者である矢倉順一(以下「矢倉」という。)に右作業の終了を報告したが、その際区分開閉器を「閉じ」の状態にしたままであることの報告をすることを失念していた。

池田から報告を受けた矢倉は、区分開閉器の状態を確認しないまま池田に分岐開閉器を「閉じ」の状態にして仮設移動ケーブルによる受電が行われるようにすることを指示した。次いで池田が、分岐開閉器を「閉じ」の状態にしたため、区分開閉器の二次側リード線まで荷電される状態になった。

(五)吉田は、右のような荷電状態を知らないまま、矢倉の指示にしたがって、高圧ケーブルの端末処理をするために、被告が用意した建柱車のバケットに乗り込み、構内第一柱に上がったところ、区分開閉器の二次側リード線に触れて感電した。

4  事故の態様等(選択的主張の二)

(一)3の(一)ないし(四)と同じ。

(二)池田は、本件事故当日の午後一時すぎに仮設ケーブルの移動作業を終え、昼食を取った後、再び本件電気工事現場において吉田らと作業についての協議をしてから、作業を開始した。池田は、まず吉田の指示にしたがい建柱車のブームを上げて吉田の乗ったバケットを構内第一柱の下の区分開閉器付近に移動して固定させた後、腕金を移動させるべく足場ボルトを伝って第一柱を上った。そして、池田が区分開閉器のスイッチを操作する紐の先端に手が届く位置に到達したとき、構内第一柱の下にいた矢倉が、池田に対し「このAS(区分開閉器のこと)入っている(通電する状態を指す。)んじゃないの。」と声を掛けた。池田は、区分開閉器の紐を数回操作した後、矢倉に対し「これ入ってんじゃないの。」と声をかけたところ、矢倉が「ばかもん。それで切れているんだ。」と言ったので、池田は区分開閉器のスイッチをそのままにした。

しかし、実際には区分開閉器は「閉じ」の状態になってしまっていた。

(三)3の(五)と同じ。

5  責任原因

(一)債務不履行責任(安全配慮義務違反)

吉田は、昭和五七年五月五日、被告から、その指揮にしたがって電気工事に従事するよう申込を受け、同日これを承諾し、翌六日の一日だけ被告の被用者として前記3の本件電気工事に従事した。したがって、被告は、被用者である吉田に対して、労働契約上、以下のとおり労働災害を防止し、その危険から生命及び健康を保護すべき安全配慮義務を負っておいたにもかかわらず、これらの義務を怠り本件電気事故を発生させたから、吉田及び原告らに対し民法四一五条にもとづいて損害賠償義務を負う。

(1) 被告は、電気工事について専門知識を有する者を作業責任者として現場に赴かせて作業について指示させるとともに、当日の具体的作業手順内容を作業従事者全員に熟知させるべきであった。特に開閉器の操作にあたっては、開く時は負荷側から順次閉じていくという安全対策上の基本原則を徹底して遵守させるべきであった。

本件においては、区分開閉器の負荷側にあった仮設移動ケーブルを分岐開閉器の負荷側に移して右ケーブルによる通電を確保しながら、区分開閉器の負荷側で作業をするものであるから、被告の右義務はより高度なものであった。

(2) 被告は、北電電柱上の分岐開閉器の操作に当たっては、北電の職員又は北電から操作を委託された者に操作させ、構内第一柱上の区分開閉器の操作に当たっては、太平洋砂利の電気主任技術者の立会を求めて、開閉器の操作を確実にさせ、これによってその後に行われる端末処理作業の環境の安全を確保するべきであった。

(3) 被告は、端末処理作業の開始にあたっては、関連する作業の進行状態とりわけ作業場所の通電の状態に係わる情報を正確に作業者に知らせるべきである。

(4) 被告は、本件電気工事のように、感電の恐れのある活線作業をする場合には、労働安全衛生規則三四一条一項一号、三号、三四九条二号、昭和四四年二月五日基発五九号、昭和三五年一一月二三日基発九九〇号の各規定のとおり、吉田に対し、絶縁用保護具、活線作業用装置及び絶縁用防具の装着をさせ、また移動式クレーン等を用いる場合には感電の危険を避けるために囲いを設けるべきであった。

(5) 被告は、端末処理作業にあたっては、作業者をして高圧検電器を用いて無電圧であることを確かめさせてから作業対象に接近させるべきであった。

(6) 被告は、吉田の行っていた端末作業が地上七・五メートルの柱上作業であるから、作業者をして墜落防止のための柱上安全帯等を確実に用いさせるべきであった。

(二) 不法行為責任(使用者責任)

本件事故は、以下のとおり、被告の被用者である池田及び矢倉の各過失が競合して惹起されたものである。したがって、被告は、吉田及び原告らに対し、池田らの使用者として民法七一五条にもとづいて損害賠償義務を負う。

(1) 選択的主張の一

<1> 池田は、仮設ケーブルの移動にあたり、区分開閉器を開き、次に分岐開閉器を開く正規の手続を省略し、分岐開閉器のみを開いて自己の作業を終えたのであるから、仮設ケーブルに通電するために分岐開閉器を閉じれば区分開閉器の負荷側も帯電することは充分認識しえたものである。

したがって、同人は、その後に区分開閉器付近で本ケーブルの接続作業が予定されていた状況の下では分岐開閉器を閉じるに際し、区分開閉器を開くか、区分開閉器付近で作業をする者若しくはこれを指示する者に対し、仮設作業場所の帯電状況についての的確な情報を提出し、作業者が帯電した区分開閉器の負荷側に接触することを防止する義務を負っていた。にもかかわらず、池田は、右の義務を怠り、分岐開閉器を閉じた状態のまま吉田に区分開閉器負荷側で作業させ、これによって吉田を帯電したリード線に接触させ感電させたものである。

<2> 矢倉は、現場責任者として、高圧電流による事故を防止するために、仮設移動ケーブルを移し換えるにあたっては被告の従業員らをして、(一)(1)記載のとおり「区分開閉器を開き、次に分岐開閉器を開く」手順を踏ませるべきであった。少なくとも、吉田が構内第一柱上で高圧電線の端末処理をするにあたり、同人に対し作業対象である区分開閉器付近の帯電状態についての確実な情報を提出するとともに吉田をして高圧検電器を用いさせて事前の安全を確認するように具体的に指示するべきであった。

しかし、矢倉は、いずれの義務をも怠り、池田に対して開閉器の操作手順について具体的指示をせず、また同人からの仮設ケーブルを移し終えたとの報告を受けただけでそれ以上の確認作業をせず、分岐開閉器を閉じれば吉田が作業をしている区分開閉器負荷側が帯電することについて確認をしないまま、池田に仮設移動ケーブルに通電することを指示した。

これによって区分開閉器の負荷側が帯電する状態となったが、矢倉は、吉田に対して、生命の危険に関する情報を与えておらず、高圧検電器も使わせないまま、吉田に作業を続けさせ、これによって吉田を帯電したリード線に接触させ感電させたものである。

(2) 選択的主張の二

矢倉と池田は、区分開閉器の端末処理作業をするにあたって、区分開閉器の二次側リード線に通電しないようにすべき注意義務があったのに、これを怠り同日午後二時一〇分ころ、区分開閉器のスイッチの操作を誤り通電する状態にし、もって吉田を感電させたものである。

6  損害

(一)吉田の逸失損害

吉田は、死亡時三一歳であり、当時四〇五万九三一四円の年収を得ていた。同人は、本件事故に遭わなければ満六七歳までの三六年間働き右の額の収入を得ることが確実であったが、死亡によって右の得べかりし利益を喪失した。

この損害を金銭に見積もると、次の算式により五七六一万一八一四円となる。

四〇五万九三一四円×(一-〇・三)(生活費控除、一家の支柱として原告ら三人の家族を扶養していた。)×二〇・二七五(就労可能年数三六年間の新ホフマン係数)=五七六一万一八一四円

(二) 原告らは、吉田の損害賠償請求権を法定相続分にしたがって相続した。

(三) 慰謝料

本件事故の態様及び被告の過失の内容・程度等からして、本件事故によって受けた精神的損害に対する慰謝料は、原告敏子については一〇〇〇万円、原告真知子及び同香奈子については各五〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは、被告から任意の弁済を受けられないため、原告ら代理人に本訴の追行を委任し、日本弁護士連合会報酬基準所定の着手金及び報酬を支払う旨約したので、弁護士費用として総額五〇〇万円を要する。

7  よって、被告に対し、本件事故にもとづく損害賠償として、原告敏子は四一三〇万五九〇七円、原告真知子及び同香奈子は各二〇六五万二九五三円及び各金員に対する本件事故発生の日である昭和五七年五月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1の事実は知らない。

2 同2(一)、(二)の事実及び(四)の事実のうち吉田が死亡したことは認め、その余は否認する。

3 同3(一)の事実のうち、被告が中道機械から本件電気工事を請け負ったことは認め、その余は知らない。

同3(二)の事実は認める。

同3(三)の事実のうち、停電時間を昼休み時間内に留めることを中道機械が求めたことは否認し、その余の事実は認める。

同3(四)の事実のうち、被告の従業員池田が仮設移動ケーブルを移す作業にあたっていたことは認め、この余は否認する。

同3(五)の事実のうち、矢倉が吉田に指示を与えていたこと及び被告が建柱車を用意したことは否認し、その余は知らない。

4 同4(二)の事実のうち、池田が吉田の指示で作業していたこと及び池田が腕金を移動するために構内第一柱を登ったことは認め、この余は知らない。

5 同5(一)の冒頭の事実は否認し、(1)ないし(6)の事実は争う。被告は本件電気工事の事業者ではないし、吉田がしていた端末処理作業は活線作業ではない。

同5(二)の冒頭の事実は否認し、(1)、(2)の主張は争う。

6 同6の事実は知らない。

三  抗弁及び被告の主張

1  本件事故に至る経過

吉田は、電気工事士、配線外線工事士三級その他多数の資格を持って、「吉田電設」の名称で電気工事を行う事業者であり、昭和五六年六月ころより度々被告の電気工事の下請けをしてきたものである。

吉田は、昭和五七年二月一五日ころ被告から請負代金一一〇万四〇〇〇円で本件電気工事を請け負い、同年四月七日ころから同工事に着手し、同月二一日までに本件電気工事のうち北電電柱から太平洋砂利プラント構内第一柱を経てキュービクルまでの配線工事を完成した。そこで、被告は、同工事部分を中道機械に引渡し、その後太平洋砂利においてこれを使用していたところ、同会社の従業員が溝の掘削中に埋設された高圧ケーブルを切断してしまった。そのため、被告が、太平洋砂利からの連絡によって、吉田に対し、その補修工事を依頼したものである。

2  本件事故の態様

吉田は、事故当日の五月六日、本件現場において、ケーブルの修復工事を行っていたが、人手が足りないため、ケーブル修復工事に必要な端末機器を届けにきた被告の従業員である池田及び矢倉に手伝いを依頼したものである。被告では、吉田に対し、仕事の手順、内容などについて特に注文をつけることは殆どなかったし、本件事故当時においても、池田及び矢倉は、吉田の指示にしたがって作業を行ったにすぎない。

池田は、吉田の指示にしたがって、まず構内第一柱に上り区分開閉器を開き、右開閉器の引き綱をバインド線を使って右電柱にしばりつけた。その後池田は、同じく吉田の指示にしたがって、北電電柱の分岐開閉器を開き、再び第一柱に上って仮設移動ケーブルを区分開閉器の負荷側から外して電源側につなぎ換え、作業の終了を吉田に報告した。さらに、池田は、吉田の指示にしたがって北電電柱の分岐開閉器を閉じ、その旨を吉田に報告した。

その後、池田は、吉田の指示にしたがって、吉田が自ら行う端末処理作業の補助をするため、吉田と共に再度構内第一柱に上って電柱の腕金のボルトを締める作業をしていたところ、吉田が突然感電して落下したものである。

3  過失相殺

仮に、被告が原告らに対し損害賠償義務があるとしても、原告らに対する賠償額を決定するにあたっては、吉田の過失を斟酌するべきである。特に、吉田は、電気工事士の資格等を持つ有能な技術者であり、また吉田電設の名称で独立して電気工事業を営む事業者であったうえ、本件の端末処理作業は吉田の指示監督の下でなされていたものであるから、以下の過失はより重視されるべきである。

(一)本件事故当時は、分岐開閉器から構内第一柱に向けて通電中であり、区分開閉器からキュービクルまで仮設移動ケーブルを通して高圧電気を送っていたのであるから、吉田は感電事故の発生を予測できたはずである。したがって、吉田としては、構内第一柱に上る際又は上った後も区分開閉器が閉じているか開いているかを確認すべきであったのに、この電気工事者として最も基本的な右の注意義務を怠ったために、本件事故が発生したのである。

(二)吉田は、高圧ケーブルの端末処理作業をするに際し、高圧検電器を用いてその端末が無電圧であることを確認してから、作業にとりかかるべきであり、またこれを行った場合には端末に通電していることが当然に判明したのに、これを怠った。

(三)吉田は、感電事故を避けるために、感電防止用ゴム手袋や電気用ゴム長靴等の感電を妨ぐ服装や装備をして作業にあたるべきであったのに、これを怠った。

(四)作業者が高圧線(六六〇〇ボルト)に触れても、死亡にまで至らない確率は相当程度高く、むしろ感電の際に電柱から落下することにより重大事故を招来しやすい。したがって、柱上作業をする場合には墜落防止のための柱上安全帯を使用することが必要である。したがって、吉田としては柱上安全帯を使用すべきであったのに、これを怠った。

4  損益相殺

原告敏子は、吉田の死亡により次の給付(合計一八七四万七八八九円)を受けたのであるから、損害の填補がなされたものとしてその損害額から控除されるべきである。

(一)労働者災害補償保険法による葬祭料三三万五〇〇〇円及び次のとおり昭和五七年から平成三年までに受けた遺族補償年金九八〇万四九九九円の合計一〇一三万九九九九円

(遺族補償年金)

昭和五七年度 六一万八三三三円

昭和五八年度ないし平成二年度 毎年各一〇六万円

平成三年度 七〇万六六六六円

(二)国民年金法(昭和六〇年改正前のもの)にもとづく母子年金合計八六〇万七八九〇円

四  抗弁及び被告の主張に対する認否

1  抗弁及び被告の主張3の冒頭の事実及び同3(一)の事実は争う。

吉田は、端末作業に従事するに際し、感電事故の発生を予測しうる状況にはなかった。吉田は、構内第一柱上から池田尚己に区分開閉器の「閉じ」「開き」を確認するように指示し、池田尚己から「開き」の状態になっていることを告げられ、これを信じて作業したのであるから充分に注意義務を果たしている。また、柱上の吉田の位置からは、開閉器の「閉じ」「開き」ないしスイッチの「入り」「切り」は逆に見えることもあるので、その確認は容易ではなかった。

同3(二)ないし(四)の事実は争う。

これらの義務は、労働安全衛生規則三三九条、三四二条、五一九条及び五二〇条によれば、事業者である被告が負うべきものであって、吉田が負うものではない。また、被告が、吉田に対して絶縁開閉保護具の着用及び柱上安全帯を使用することを命じたことはない。

2  同4(一)のうち、原告敏子が被告主張の給付を受けたことは認める。ただし、同原告は、吉田の葬祭料を損害として賠償請求をしていないから、これを控除することはできない。

同4(二)の母子年金額を原告敏子が受けたことは認める。これを損害額から控除すべきであるとの被告の主張は争う。

右の年金給付は、吉田が国民年金に加入したことによってなされたものではなく、原告敏子が国民年金に加入し所定の保険料を納付し、その要件を満たしたため支給されたものであるから、原告敏子の損害額から控除することは許されない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当事者について

原告吉田敏子本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告敏子は、吉田(昭和二五年一一月二九日生)と昭和四八年九月一九日に婚姻し、長女・原告真知子(昭和四九年二月一三日生)と二女・原告香奈子(昭和五二年九月九日生)をもうけたことが認められ、この認定に反する証拠はない。また、被告代表者の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、北海道苫小牧市に本店をおいて、昭和五七年五月当時一〇名程度の従業員を雇用して電気工事請負業を行っていた株式会社であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

二  事故の発生及び態様等について

1  当事者間に争いのない事実

請求の原因2(一)、(二)の事実、昭和五七年五月六日に吉田が死亡したこと、被告が中道機械から本件電気工事を請け負ったこと、同3(二)の事実、同(三)のうち、中道機械が停電時間を昼休み時間内に留めることを要求したとの部分を除いた事実、池田が仮設移動ケーブルを移す作業にあたったこと及び池田が吉田の指示にしたがい構内第一柱の腕金を移動させるべく足場ボルトを伝って構内第一柱に上ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  認定事実

成立に争いのない(証拠略)工事番号の各ゴム印部分及び「事故後です」と記載部分を除いてはその成立に争いのない(証拠略)(なお、ゴム印及び記載部分は、被告代表者の尋問の結果により真正に成立したものと認められる。)、大森名の丸印部分を除いてはその成立に争いのない(証拠略)(なお、丸印部分は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)、大森名の丸印、工事部のゴム印部分を除いてはその成立に争いのない(証拠略)(なお、丸印及びゴム印部分は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)、大森名の丸印、工事部、工事番号、日付の各ゴム印部分を除いてはその成立に争いのない(証拠略)(なお、丸印及びゴム印部分は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)、大森名の丸印、開発部のゴム印部分を除いてはその成立に争いのない(証拠略)(なお、丸印及びゴム印部分は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)、吉田和雄が昭和五七年五月九日に本件の構内第一柱を撮影した写真であること(証拠略)、朝野修が昭和五七年五月一五日に吉田が本件事故当時使用していたバケットを撮影した写真であること(証拠略)、弁護士村松弘康が昭和六一年五月一〇日に本件事故現場を撮影した写真であることに争いのない(証拠略)、同弁護士が昭和六二年九月六日にバケットを撮影した写真であることに争いのない(証拠・人証略)の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる。

(一)  吉田は、昭和四一年ころから昭和五一年ころまで錦戸電気という会社に勤務して電気配線工事などに従事した後、そのころいわゆる独立をして「吉田電気」の名称のもとに個人で電気配線工事業を営んできたもので、昭和五七年五月当時は、電気工事士、配電外線工事士等の資格を持っていた。

被告は、電気工事請負業などを目的として設立された株式会社で、当時、代表者の下に工事部と開発部の二つの部が置かれ、工事部には矢倉部長、菅原課長、池田主任、そして池田尚己の四人が配置され、他方開発部にも四名の従業員がおり、事務職のものを含め総員一〇名程度の従業員がいた。

吉田と被告代表者とは、ともに錦戸電気に勤めていたことがあったことから付き合いがあり、昭和五六年ころからは、被告が、吉田に電気工事の仕事を請け負わせたり、人手が足りないときや電気工事が高度の技術を要するような場合に、臨時的に吉田及びその従業員を使用したりしてきた。

(二)  太平洋砂利は、北海道勇払郡鵡川町晴海町九四番地において砂利の採取・製造をするため、昭和五六年一二月ころ、中道機械との間で、同所における砂利切込プラントの建設請負契約を以下のとおり締結した。

(1) 中道機械は、砂利切り込プラント用受電設備及び動力工事、すなわち省エネルギー率改善装置付四室屋外キュービクルの設置工事、高圧受電設備工事及びプラント内動力配線工事(この工事は、低圧モーター配線工事、低圧電源工事及び高圧モーター電源配線工事からなる。)を行う。ただし、キュービクル設置のための基礎工事は中道機械は行わないし、ケーブル埋設時の掘削は太平洋砂利が行う。

(2) 太平洋砂利は、右工事代金として、一〇五九万四九六〇円を支払う。なお、キュービクルの設置工事代金は、五八〇万円とする。

(3) 中道機械は、砂利切り込み用各種機械及びベルトコンベアー据え付け工事等を行う。

(4) 太平洋砂利は、右工事代金として、六三七六万円を支払う。

(三)  そして、中道機械は、同じころ、被告との間で、被告において前記キュービクルの組立を除くその設置工事、高圧受電設備工事及びプラント内動力配線工事(低圧モーター配線工事、低圧電源工事及び高圧モーター電源配線工事)を代金三三〇万円で請け負う旨の請負契約を締結した。

被告は、中道機械との契約にしたがい、昭和五七年二月ころから、本件電気工事に着手し、同年四月末ころには、太平洋砂利の前記砂利プラント工場付近の北電電柱(別紙一の図面(略)表示のとおり)から六六〇〇ボルトの高圧電流を架空電線で構内第一柱まで導入し、これを地中埋設の高圧電線でキュービクルまで送るための配線等の工事をほぼ終了した。

他方、太平洋砂利は、プラント内の基礎工事及びケーブル埋設時の掘削を行い、また中道機械は、本件電気工事に関しては、昭和五七年四月一〇日ころからキュービクルの組立工事を始め、同月二八日ころにはこれを完了し、その設置を終えた。

そこで、中道機械は、そのころ、太平洋砂利の名前で、北電から通電を受けるため、新設の受電・送電の各設備の検査を受け、これに合格したので、北電電柱から本件キュービクルに通電された。そのころ、太平洋砂利は、本件プラント構内のダンプウェイの建設工事を行っていたが、そのために電気溶接を必要とし、別紙一(略)の図面表示のとおり、北電電柱の分岐開閉器から架空電線、構内第一柱の区分開閉器を経、さらに地中ケーブルを通じてキュービクルまで送電された電気を使用していた。

中道機械は、昭和五七年四月末ころには自己の担当するキュービクルの組立設置工事を終え、通電を受けたことから、本件プラント構内での作業をひとまず切り上げた。

(四)  被告は、昭和五七年五月初旬には、中道機械から請け負った本件電気工事の中のキュービクル以降の二次配線工事を残していたことから、同月四日には、従業員池田尚己らの立会いのもとに、太平洋砂利の従業員による地下ケーブルの埋設用の溝掘りを行った。

ところが、太平洋砂利の従業員は、前記キュービクルからプラント構内の三三〇〇ボルト用モーターに至る高圧電線の埋設用溝を掘削機械(ユンボ)を用いて掘削していたところ、誤って構内第一柱からキュービクルに至る六六〇〇ボルトの高圧電流送電用地中ケーブルを切断してしまった。池田尚己からその旨の連絡を受けた矢倉、菅原課長らは、現場に赴き、被告代表者の指示のもとに、まず北海道電気保安協会から仮設ケーブルを借り受け、これをキュービクルから構内第一柱の区分開閉器までの架空線として仮に布設したうえ、切断した地中ケーブルの取替え作業を行うことに決めた。

被告において、そのころから、キュービクルから構内第一柱までの地面の掘り返しと切断ケーブルの除去工事を急いで行い、昭和五七年五月五日には、高圧本ケーブルの埋設と同ケーブルと構内第一柱上の区分開閉器からのリード線との接続(端末)作業を残すのみとなった。しかし、この高圧ケーブルと区分開閉器のリード線との接続作業は、高度の電気技術を要するものであり、当時被告内にはこれを行うことができる従業員がいなかった。そこで、被告は、同日、矢倉において、吉田に対し、急遽右の端末処理作業も含め、本件電気工事を手伝ってくれるよう依頼し、これを承諾した吉田及びその被用者である朝野修及び戸城豊志を臨時的に雇用することとした。

(五)矢倉、菅原、池田及び池田尚己らは、昭和五七年五月六日の午後八時ころ、苫小牧市所在の被告の事務所において朝礼などをした後、菅原及び池田尚己らがまず自動車で鵡川町の本件工事現場に向かった。吉田らも、一旦被告の事務所に集まったが、被告従業員らの朝礼には参加せず、その終了後、被告の従業員とともに本件工事現場に向かった。

吉田らは、午前九時ころ本件工事現場に到着し、構内の前記キュービクル付近から構内第一柱までの穴掘りや高圧本ケーブルをドラムから手繰り、埋設用の穴を経て区分開閉器のある構内第一柱のところまで引っ張ってくるなどの作業を行った。他方、本件電気工事の現場責任者の立場にあった矢倉及びその補佐の立場にあった池田は、午前一一時三〇分ころ、高圧線端末処理材を持って現場に到着し、端末処理作業を直接担当する吉田にこれを渡した。

その後、吉田らは、正午ころ昼休みに入る一方、池田は、前記仮設ケーブルの付け替え作業に取り掛かった。池田は、別紙一の図面表示の北電電柱の分岐開閉器のスイッチを切ったうえ、前記仮設ケーブルと構内第一柱の区分開閉器の二次側との接続部分を取り外し、仮設ケーブルを北電電柱の分岐開閉器の二次側に接続した。そうして、池田は、同日午後一時すぎころ、矢倉及び吉田らに対し、仮設ケーブルの付け替え作業を終えたこと及び北電電柱の分岐開閉器のスイッチを入れることを伝え、そのすぐ後、右のスイッチを入れた。これによって、北電電柱から仮設ケーブルを経てキュービクル以降にまで通電され、再び太平洋砂利による構内作業に電気を使用することができることとなった。

(六)吉田は、昼食の後の午後一時ころから作業を再開し、高圧ケーブルと構内第一柱の区分開閉器のリード線との接続などの端末処理作業に取り掛かった。吉田は、午後一時すぎころには、構内第一柱付近の建柱車のバケットに乗って電柱の上部の腕金(電柱の上方部に電柱と直角方向に設置され、電線などを固定するための金属板)付近まで上り、作業をした。また、吉田は、午後一時二〇分ころ、胴綱をつけて構内第一柱上で作業中、区分開閉器のスイッチ状態を確かめるため、同電柱下付近を通りかかった池田尚己に声を掛け、区分開閉器のスイッチの「入り」「切り」の確認を求めたことがあった。池田尚己は、その時、構内第一柱の区分開閉器を見ると、スイッチが「切り」の状態になっていたので、その旨吉田に伝えた。

なお、構内第一柱の区分開閉器及びその周辺の状況は、概ね別紙二の図面(略)表示(「PAS」とは区分開閉器を指す。)のとおりである。区分開閉器は、地上約八メートルの高さの所にあり、そのスイッチは、二次側リード線の出る面から見て、左側側面にあり、図面表示のスイッチ操作用綱を引いて「入り」「切り」の操作をする仕組みのものであった。区分開閉器の二次側のリード線の長さは約六〇センチメートルであった。

(七)この後、吉田は一旦構内第一柱を下り、午後一時三〇分すぎころ、構内第一柱付近の地上において、矢倉から渡された高圧線の端末キットの梱包を開けて内容を確かめたところ、これが従前使用したものと異なっていたため、暫くの間その説明書を読んでいた。丁度そのころ、矢倉を池田は昼食を終え、吉田のいる構内第一柱付近に戻ってきた。吉田は、説明書を読むうちに「よし、わかった。」と声をあげ、柱上作業に取り掛かるべく、まず池田に対し、構内第一柱の下から二番目の腕金を上方に移動するよう求めた。そこで、池田は、構内第一柱の足場ボルトを伝ってこれを上り始めた。吉田は、自らも電柱上での作業に備え、防寒ジャンパーを置いていた自動車に向かった。矢倉は、数分間は、その場に留まったが、その時点では、別紙一の図面表示の北電電柱の分岐開閉器からこれに接続した仮設ケーブルで構内のキュービクルにまで受電していた(北電電柱の分岐開閉器のスイッチは、「閉じ」(「入り」)の状態にあった。)のに、構内第一柱の区分開閉器のスイッチを「開く」(「切る」)か、又は「開き」(「切り」)の状態にあることを確認するなどの措置をとることなく、間もなく構内のキュービクル付近における作業を手伝うためにその場を離れた。

一方、池田は、構内第一柱の二番目の腕金付近に達したうえ、その腕金の上部に胴綱を縛って固定させて腕金を留めているボルトを緩め始めたところ、そのころ建柱車のバケットに乗ってその付近に達した吉田から、胴綱を二番目の腕金の下部に固定させるよう注意された。池田は、これにしたがい胴綱を付け替えて、二番目の腕金のボルトを緩め、吉田と力を合わせて右腕金を持ち上げ、これを固定する位置を決めた。そして、池田が腕金のボルトを締めつけている間に、吉田の声が聞こえたので、その方向を見た瞬間に同人が高さ約七・五メートルの建柱車のバケットから地上に転落した。

(八)吉田の乗っていた建柱車のバケットは、別紙三(略)の写真のとおりの形状で、床(底部)から上部の柵までは約一メートルの鉄製の絶縁装置がなされていないものであった。

吉田は、転落直前の同日午後二時一〇分ころ、前記のとおり北電電柱の分岐開閉器及び構内第一柱の区分開閉器の各スイッチがいずれも「閉じ」(「入り」)の状態にあって、構内第一柱の区分開閉器の二次側リード線が帯電していることを知らないまま、高圧ケーブルの端末処理作業をしようとして、右リード線を左手で掴んだ際、右手示指、同環指がリード線に触れ、さらに左足がバケットの鉄枠に触れるに至った。このため吉田の体に高圧電流が流れ、吉田はその衝撃でバケットから逆さまに転落したものであった。吉田は、直ちに、北海道勇仏郡鵡川町美幸町一丁目八六番地所在の鵡川厚生病院に搬送されたが、電撃ショックのため同日午後二時三〇分に死亡した。

以上の事実が認められ、(証拠・人証略)、被告代表者の尋問の結果中の右認定に反する部分は、たやすく信用し難く、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

原告らは、請求の原因4(二)において、本件事故当日の午後一時すぎころ、矢倉が構内第一柱上の池田に向かって「このAS(区分開閉器のスイッチを指す。)入ってんじゃないか。」と声をかけ、池田が矢倉に「これ入ってんじゃないの。」と返答したところ、矢倉は「ばかもん。それで切れているんだ。」と言うなどのやりとりした際、池田が区分開閉器のスイッチを「閉じ」の状態にしたかのように主張するが、これに(証拠・人証略)に照らし採用し難く、他の右事実を認めるに足りる証拠はない。

三  責任原因について

1  吉田と被告の雇用契約

前記認定のとおり、被告は、昭和五七年五月五日、吉田を少なくとも翌六日に高圧ケーブルの端末処理作業を行わせる目的で、雇用したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

すなわち、被告は、吉田が昭和五七年二月一五日ころ被告から本件電気工事を代金一一〇万四〇〇〇円で請け負ったものであって、吉田は請負者として高圧ケーブルの端末処理作業等を行っていたと主張し、被告代表者の尋問の結果中にこれに沿う部分があるが、(証拠・人証略)の結果に照らし、被告代表者の右供述部分は到底信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  被告の安全配慮義務

右のとおり、被告は、吉田の使用者であったから、労働契約上、吉田に対し、その労働災害の発生を防止し、その危険から生命及び健康を保護すべき一般的な安全配慮義務(不法行為上の注意義務)を負っていたことはいうまでもない。

そして、右の一般的な安全配慮義務の本旨及び被告が太平洋砂利から高圧本ケーブルの付け替えによる停電時間を昼休み時間内に留めることを要求されていたことなどにかんがみると、被告には次のとおり具体的安全配慮義務(同内容の不法行為上注意義務があったとも認められる。)があったというべきである。

すなわち、第一次的には、被告は、北電電柱と構内第一柱との間の高圧架空線の接続を解除して(仮設ケーブルは、分岐開閉器の二次側に接続する。)、区分開閉器の二次側における高圧ケーブルの端末処理を吉田に行わせるべきであった。また、高圧架空線の接続を解除しない場合には、少なくとも、区分開閉器のスイッチを「開き」(「切り」)の状態に固定し(その場合にも、原告らが、請求の原因5(一)(2)で主張するように太平洋砂利の電気主任技術者の立会いを得るべきであったし、少なくとも、吉田が構内第一柱上において高圧ケーブルと区分開閉器からのリード線との接続作業を開始する時点では、矢倉においてまず確実に区分開閉器のスイッチを「開き」(「切り」)の状態にあることを確認するべきであり、これが「閉じ」(「入り」)の状態にあることが判明した場合は、吉田らの作業を中止させ、「開き」(「切り」)の状態に固定する措置をとるべきであった。)、活線作業に準じて原告らが請求の原因5(一)(4)で主張するように、吉田に絶縁保護具等を装着させるなどすべきであった。

ところが、前叙のとおり、被告及びその履行補助者であった矢倉は、右のいずれの配慮義務を尽くすことなく、矢倉においては、吉田が構内第一柱の区分開閉器の二次側リード線に接触する直前においても、同開閉器のスイッチを「開く」(「切る」)ことも、又「開き」(「切り」)の状態にあることを確認することもせず、漫然と吉田に区分開閉器の二次側リード線の端末作業をさせ、本件事故を発生させるに至ったものであるから、本件事故の発生について被告に安全配慮義務違反(また、不法行為における過失)があったことは明らかである。

四  原告らの損害額について

1  吉田の逸失利益

(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によると、吉田は、本件事故当時、三一歳で普通の健康体であったこと、同人は、吉田電設の名称で、従業員を二名程度使用して電気請負工事業を営み、昭和五五年において四一二万三二五四円の所得があり、昭和五六年において四〇五万九三一四円の所得があったことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、吉田は、本件事故がなければ、その当時から六七歳に至るまでの三六年間嫁働を続け、その間少なくとも年間四〇五万九三一四円の収入を上げることができたものと推認することができるところ、本件事故により死亡し、右の額収入を得ることができなくなった。この得べかりし利益を喪失したことによる損害を金銭に見積もると、次の算式のとおり、五七六一万一八一三円となる。(吉田は一家の支柱として原告ら家族を扶養していたことから、生活費として三割を控除し、これに三一歳の者の新ホフマン係数二〇・二七五を乗ずる。)

四〇五万九三一四円×(一-〇・三)×二〇・二七五=五七六一万一八一三円

2  相続

前叙のとおり、原告敏子は吉田の妻、原告真知子及び同香奈子はその子であるから、原告らは、法定相続分にしたがい、吉田の損害賠償請求権を相続した。

3  慰謝料

吉田が生前一家の支柱として原告らの家族の生活を支えていたこと及び本件事故の態様等の諸事情に照らすと、吉田の死亡による原告らの精神的苦痛に対する慰謝料は、原告敏子について一〇〇〇万円、原告真知子及び同香奈子について各五〇〇万円が相当である。

五  過失相殺について

被告は、本件事故の発生について、吉田にも過失があるので賠償額の決定にあたりこれを斟酌すべきであると主張するので、その点について判断する。

1  まず、被告は、抗弁及び被告の主張3(一)において、本件事故当時、分岐開閉器から構内第一柱まで通電中であったから、吉田としては、区分開閉器のスイッチの「入り」「切り」を確認すべきであり、吉田はこれを怠ったと主張する。

しかし、既に述べたとおり、吉田の高圧ケーブルの端末処理作業にあたっては、被告又はその履行補助者であった矢倉が構内第一柱の区分開閉器のスイッチの「入り」「切り」を確認すべき立場にあったうえ、証人池田尚己の証言及び被告代表者の尋問の結果によると、実際の作業上も、柱上の作業者が柱上の開閉器のスイッチの「入り」「切り」を確認することは困難であったり、誤認のおそれがあったりすることから、地上にいる現場工事の監督者らの視認を優先させるものとされていたことが認められること、さらに、二で認定したとおり、本件事故当日の一時二〇分ころではあるが、構内第一柱に上った吉田は、地上の池田尚己によって同柱上の区分開閉器のスイッチの「入り」「切り」を確認をしていることなどにかんがみると、吉田が、事故発生直前において右スイッチの「入り」「切り」を確認をしなかったからといって、これを原告らに対する被告の賠償額の決定にあたり斟酌するのは相当ではない。

2  次に、吉田は、高圧検電器等を用いて検電すべきであったとの被告の同3(二)の主張についても、先に認定したとおり、吉田は電気工事士等の資格及び長年の経験を有する電気工事の技術者であったこと及び本件の区分開閉器の一次側の電圧は六六〇〇ボルトと非常な高圧であったこと等の事情を考慮しても、吉田に高圧検電器等を用いて二次側の電圧の有無を確かめさせるべきであったのは、第一次的には被告もしくはその履行補助者であったのであって、しかも、被告が企図した作業からすると、その内容及び手順を既に述べたようなものとすべきであったことからして、吉田が検電しなかったことも、賠償額の決定に際して斟酌するのは相当とはいえない。

同3(三)の主張についても、前同様、吉田が事故当時被告の主張する感電用ゴム手袋や電器用ゴム長靴等の装着していなかったことを斟酌すべきではない。

3  同3(四)の主張については、先に認定したとおり、吉田の死因は電撃ショックであったし、すでに繰り返したとおりの被告の側の注意義務違反の内容・程度にかんがみると、被告の右主張を採用することはできない。

4  右のとおり、被告の過失相殺の主張は、すべて採用しない。

六  損益相殺について

1  労働者災害補償保険法による遺族補償年金等

原告敏子が吉田の死亡後労働者災害補償保険法による遺族補償年金九八〇万四九九九円及び葬祭料三三万五〇〇〇円の各給付を受けたことは、当事者間に争いがない。

しかし、本件においては、原告敏子は吉田の葬儀費用を損害としてその賠償請求をしていないから、労災保険法にもとづく葬祭料の給付額を逸失利益損害から控除することは許されない。

したがって、原告敏子の相続した吉田の逸失利益二八八〇万五九〇六円から遺族補償年金九八〇万四九九九円のみを控除すべきであるから、その残額は二九〇〇万〇九〇七円となる。

2  国民年金法にもとづく母子年金

原告敏子が国民年金法にもとづく母子年金として合計八六〇万七八九〇円の給付を受けたことは、当事者間に争いがない。

原告は、国民年金給付は損益相殺の対象にならないと主張し、特に本件の母子年金は、吉田ではなく原告敏子自身が加入し保険料を納入したことにより給付を受けたものであるから、吉田の損害額から控除すべきでないと主張する。

しかし、国民年金法二二条の規定(昭和六〇年改正前も同内容)からして、受給権者が、加害者の行為が原因となった被保険者の死亡などにより、現実に政府から保険給付を受けた場合には、その額の限度で加害者である第三者に対する損害賠償請求権を政府が取得し、受給権者はこれを喪失すると解すべきである。そして、この理は、たとえ受給権者である妻が加入した母子年金であっても、異なるところではないというべきである。

したがって、原告敏子が受けた八六〇万七八九〇円は、これが損害の填補として損益相殺の対象となると解すべきであるから、残損害額の二九〇〇万〇九〇七円から八六〇万七八九〇円を控除すべきであり、その残額は二〇三九万三〇一七円となる。

七  弁護士費用相当損害額

以上のとおり、被告は、原告敏子に対し二〇三九万三〇一七円、原告真知子及び同香奈子に対し各一九四〇万二九五三円を賠償すべきところ、弁論の全趣旨によれば、被告がこれの任意の弁済に応じなかったため、原告らは、その訴訟代理人に委任して本件訴訟を追行し、その費用及び報酬として五〇〇万円(原告敏子は二五〇万円、原告真知子及び同香奈子は各一二五万円)の支払を約したことが認められる。

本件訴訟の審理経過、事故による原告らの損害額等に照らし、右約定の少なくとも五〇〇万円を本件事故による損害と認めるのが相当である。

八  結論

以上の次第で、被告は、原告敏子に対しては、二二八九万三〇一七円及びこれに対する本件事故の発生日である昭和五七年五月六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、原告真知子及び同香奈子に対しては、各二〇六五万二九五三円及びこれに対する同じく昭和五七年五月六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があるから、原告敏子の本訴請求は右の限度で理由があり正当として認容するが、その余は失当として棄却し、原告真知子及び同香奈子の請求はすべて正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官菅野博之は海外出張のため、裁判官松田浩養は填補のため、署名押印することができない。裁官長裁判官 大出晃之)

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